電子書籍の絶版の話とか

某君から少し電子書籍の絶版についての話を尋ねられたので、
その辺をまとめて書いておこうかと。

結論から言って
電子書籍にも絶版はあり得る話です。
実際、私も10年ほど前に、少しばかり電子書籍の販売に関わっていて
電子書籍が絶版になるのを見てきました。

いや、凄くあっさりしたモノですよ。
紙の本なら返本から裁断とかへ悲壮な場面が続くのでしょうが、
電子書籍は販売データベースから取り除かれるだけ。
期間限定のコンテンツとかではなければ、
普通は告知もありませんでした。
おそらく今もほとんどのものでは無いでしょう。

販売会社がそういう絶版になったデータを
その後、どう扱っているのかなんて言うのは、
当時から疑問だったんですが、出版社側に
「削除証明」みたいなものは出してはいなかった気がしますね。
アマゾンなんかを含めて、今も無いと思います。

とりあえず、版元である出版社が
「絶版にします」と言えば
販売店側で販売が終了するだけの感じですな。

販売店側は「取り扱い中止」が出来ても
絶版に対する権限はありません。


では、どういった場合に出版社が絶版にするのかというと、
大きく分けて三つのケースがあると思います。
・管理費が捻出できない 
・権利関係の問題
・諸々の兼ね合い


まず
・管理費が捻出できない
 ですが、

出版社も企業ですから諸々の経費が掛かってきます。
自社で販売までやっているのならば、
サーバー代や回線代なんてのが掛かります。
クレジットカードやらの料金回収スキームの固定費も必要です。
でも、これは基本的に「売れないコンテンツを省いても消えない部分」です。

その一方で、 電子書籍は増刷や在庫コストが掛からないと言っても
担当を置いたり 著者と連絡したり、印税を振り込むといったものにも
経費が必要になってきます。

それほど大きいものであると思えないかも知れませんが、
昔ながらに人の手で管理をしていると、数が増えれば大変になって来ます。
お金にならない手間ばかり増える感じ。 担当部署は嫌な顔しますし、
会社の赤字を気にしなくてはならない状況であれば削りたくなる部分です。


しかし、実はこの経費の部分というのは、
アマゾン以前と以降では考え方が大きく変わった様に思います。

まずアマゾンは、基本販売店の立場なのですが、
ご存じの「ロングテール戦略」というのを取っています。
要するに、 小口でも集めれば巨大になる。
小口を集めて管理するのにITを駆使することで経費を押さえていく。

このスキームの構築は、
キンドル書籍なんかでも影響を受けているわけで、
KDPの出版なんかに関しても出版管理の自動化がすすんでおり、
売れている電子書籍から、売れてないだろう電子書籍まで、
消えること無くアマゾンで数多く流通しています。
あたかも数こそ正義っていう感じで「まず集めよう」という気配すら在る。
流通させておくのに経費を取らないと言うのもポイントです。

このアマゾンのスタンスは出版社の側にも及んでいるのではないのでしょうか。
もちろんロングテールなんて無視しろっていう経営方針もあるでしょうが、
その一方で、
「金が掛からないのなら、ロングテールを狙って置いておいておけ」
という流れもあったりします。

特に、今では電子書籍の販売管理に掛かる手続きが
クラウドで簡単にやれるようになったりしいますから、
出版社側も、そうした仕組みに慣れてきたのかもしれません。
一昔前みたいに、手作業で処理をしていて、
「数が増えると経費が大変だ」という時代では
だんだんと無くなってきています。




次に、
 ・権利関係の問題
と言うのも結構大きな話です。

著者の方が、紙の本を別の出版社から出すので
「電子書籍も引き上げてくれ」 と言う様な話もあるようです。
 あと電子出版は利率の良い所でやりたいとか。

また使われている画像かなんかに、
肖像権とか著作権とかの問題があった場合、
当然、電子書籍もアオリをくらう事になります。

昔、ちょっと凄いなぁと思ったのが、
韓流スターのヨン様の画像を使ったら、
「ヨン様の右手の肖像権」というのを別の会社が保有していて……
とかいうので、実に困ったことになったと言う話を聞いた事があります。
まぁ韓国の権利事情っていうのは特別複雑なんだそうですが。
この手の話に巻き込まれる事は、たまにあるかも。

他にも「会社が潰れた」とか「実用書の部門が無くなった」とかで
出版社側に管理する人がいなくなって、
電子書籍も絶版になってしまうことがあります。


 そして中々侮れないのが、
 ・諸々の兼ね合い
この部分ですな。

これは色々とあるのですが 、

例えば、やたらに出版点数を増やしてしまうと
限られた人数しかいない編集部員の著者管理が大変になるので、
ある程度は整理したいと言う思惑もあるかもしれません。
実は、この辺りの話はロングテールに対応出来ていないだけだったりします。

本気でやろうとすると、今後は管理体制を含めて変わっていくかも


それと昔は、紙の本が絶版になったのだから
当然電子書籍も絶版になるものだと
頭から考えている人も昔は珍しく無かったのですな。

そうしないと、販売の整合性がとれず、
書店に悪いだろうという考えもあったのかも知れませんが。



またフロッピーとかの時代の人は
「無駄に容量を喰っているのでは無いか?」とか
変に気にしていた人も多かったかも知れません。
確かに昔はサーバー容量でも「1M何円」っていう感じで
お金を取っていた時代もありますから、
そう言う時のイメージで「無駄な容量=損失」だっていうので、
現状のコスト計算もせずに、
「売れないのはなるだけ引き上げるのが正義」と思い込んでいたり。

あと、もしかすると、
「いつまでも売れない本を抱えておきたくない」と
考えている出版社の人もいたかも知れません。

もちろん会社によって違うのでしょうが、
その昔は、電子書籍部門というと閑職感漂う部門だったりしたわけで
そういう所で「売れない本を押しつけやがって」っていう感覚でいた人とかは、
「電子書籍の絶版に反対」っていう立場を積極的にとっていなかったのかも。

今でこそ、それほど経費を掛けずに出版を維持できるといのうは
電子書籍の大きなメリットですが、
当時は、折角のこの電子書籍のメリットになりそうな部分を
上手く主張出来ていなかった感じはあります。





まぁ、この辺りの感覚を含めて
実はKindleの登場で、大きく変えられていたりします。

 こういう言い方はアレなんですが、
米国での成功をひっさげて やってきたアマゾンは
「権利関係とデータさえ揃えてくれれば売り上げを作ってやる」
っていう強気な姿勢で多くの日本の出版社の考えを揺さぶったようです。




さて結論を言うと、たまに誤解される事があるようですが、
「電子書籍も維持に経費が掛かるから絶版になる」っていうのは
今では、もうかなり少なくなってきているのが実情ではないかと思います。


少なくとも今は、絶版と言うと、、
部署やレーベルの統廃合のアオリを喰らったり、
諸々の権利関係とかの話の方が
多かったりするのではないのでしょうか。





そういった昔の電子書籍の近辺の話なんかも含めて少し書いた
めきし粉書房の本です。
『俺の電子書籍が売れないのは、どう考えてもおまえらが悪い。』
どうぞよろしく。



※すいません。本当は「電子書籍出版をやろう!」系の本の嫌がらせで書きました。。